春先から、自民党の人権問題等調査会(太田誠一委員長)で、13回にわたり会議を開催してきた。私も、毎回その議論に参画をしてきた。
すでに、関心のある皆さんは報道やネットを通じてその議論の中身も承知しておられることと思うが、太田委員長より「話し合い解決」法案なる私案が提出された。参考までに「話し合い解決」等による人権救済法(案)骨子を添付する。太田委員長いわく、今までに指摘された問題点を踏まえた骨子案であることを説明したが、果たしてそうなのか。
十三回の調査会の議論を通じて明らかになったことは、我々が危惧していることがほとんど払拭されていないことだ。話し合い解決というといかにも優しい感じを受けるが、実体は、政府から独立した委員会(3条委員会?)を設置して調査権を認めるものであるし、「差別的言動」や「畏怖困惑させるもの」、「差別助長行為」など、極めて曖昧且つ恣意的判断の余地を残す定義など、3年前に問題点を指摘した政府原案の中身が包含させており、言論・表現の問題を裁判所ではなく、行政機関が行なうことは全く政府案と変わっていない。などなど。
確かに、刑務所や入管など公務員による人権侵害は年間2000件を越えており、人権擁護推進審議会の答申でも、いわゆるパリ原則でも、公務員による人権侵害は強く指摘している。太田私案で賛成できるのは、公務員が行なう人権侵害の点くらいである。
そもそも、人権侵害、差別虐待、いじめ等様々な事例を法律で全て網をかけてしまおうとする発想事態が極めて危険であると改めて認識するものだ。人権侵害という絶対的尺度で判断できないものを、法律万能主義のもとで対応すること自体、新たな人権侵害を惹起しかねない。
来週の水曜日に開催される予定の調査会には、人権擁護法案について造詣の深い日大法学部の百地章教授が参考人としてこの「太田私案」に意見を述べていただくことが決定している。百地教授の鋭く且つ的確な問題点の指摘を期待している。太田委員長は、ある有力議員に13回も議論してきて何もできないのでは鼎の軽重を問われると話したといわれている。果たしてそうだろうか。調査会における各議員の発言を聞いていても、論理的に推進をはっきりと主張する議員はほとんど存在しないのが現実だ。あらゆる角度から議論した結果、立法することは適当ではないと(公務員による人権侵害はともかく)結論を出すことこそが、調査会長としての立派な見識ではないだろうか。