古屋圭司通信

19_5_21.JPG「日本の息吹」平成19年6月号にてインタビューを受けましたので、発行元より許可を得て転載いたしました。
 新憲法制定促進委員会準備会座長 古屋圭司衆議院議員に聞く。
 国民投票法案の修正、超党派議連による新憲法の大綱の発表など、その中心的役割を担った古屋議員に聞いた。
●最悪の事態は回避できた国民投票法案
― 護憲派を利しかねない危険性のあった国民投票法案について、その最終修正を勝ち取られました。
古屋◆最低限の再修正ができたと認識しています。経緯を振り返ってみますと、憲法を改正するためには、憲法九十六条にある国民投票を規定する法律をつくらなければならない。衆議院の憲法調査会でも未だにその法律がないことは国会の不作為であるとの意見が大勢を占め、護憲派の人達からも反対はあまりなかった。


 そこでまず自民党案ができ、ついで与党案、そして与党修正案と出されました。たまたま私は昨年末までの一年二ヶ月ほど自民党を離れていましたので、この議論には参画しておりませんでしたが、与党修正案を見て愕然としました。野党に対して無原則な妥協をしすぎていると思ったからです。それは主に以下の六点の問題でした。
①年齢の問題(二十歳でなく十八歳)。
②投票の対象の問題(憲法改正以外の国政上重要な問題も対象とする)。
③公務員の地位利用に対する罰則の問題(刑事罰の規定がない)。
④公務員の政治活動の制限の問題(制限規定を除外)。
⑤メディア規制の問題(規制が全くない)。⑥選挙期間の問題(六十日から半年間というあまりにも長いもの)。
 このままの法案が通ったら大変なことになると思い、早速、自民党の中川昭一政調会長に相談しました。また、政調会長のもとに開かれた「国民投票等に関する特命委員会」では、特命委員長に一任したとのことでしたので、特命委員長の保岡興治先生と船田元先生にもアプローチさせていただきました。そして党の部会、調査会にももう一度再検討をお願いしてそこで議論しました。
 その結果、特に問題であった④と⑤については以下のように修正することができました。
 まず何が問題だったのかといえば、国家公務員法、地方公務員法に規定されている公務員の政治活動の制限規定が適用除外となっていることでした。これが通ると、日教組や自治労が堂々と憲法改正の反対運動を展開するということになりかねなかったのです。
 「猿払(さるふつ)事件判決」というのがあります。郵便局員が政治活動したことに対して公務員の政治活動の禁止は合憲か否かが争われたものですが、最高裁の判決は、公務員は全体の奉仕者であって中立性、信頼性ということを考えれば、制限を設けることは憲法違反ではないというものでした。よって、当初の与党案はこの判例にも反するものでありました。
 そこで最終的にはこの適用除外は法案から削除されました。
 もう一点修正できたところはメディア規制です。当初の案では、一切の規制が外されていました。とくにプリントメディアよりも映像メディアが問題で、偏った報道がテレビで流される可能性がありました。これが最終的には、政治的公平性を守るとする放送法三条二項の適用をすると修正することができました。
 ただ、心しなければならないのは、「附則」第十一条で、公務員の「憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることのないよう、必要な法制上の措置を講ずる」とされたこと、さらに同第十二条で、国民投票の対象を憲法改正以外にも拡大できないか、今後検討を加えるとなったこと等、問題もまだ残されているということです。今後、注意深く対応していかなければならないと思っています。
●新憲法の大綱
― 去る五月三日、超党派の議員連盟「新憲法制定促進委員会(準備会)」が「新憲法の大綱」を発表しました。古屋先生にはその座長として大綱をまとめられました。
古屋◆大綱の意味合いを知っていただくには、まず自民党の憲法改正案の経緯を辿る必要があると思います。平成十七年七月に出された自民党の第一次憲法改正草案は、安倍幹事長代理(当時)、中曽根康弘元総理が中心となって書かれたもので日本の歴史文化伝統と国家としての尊厳を重んじたものでした。ところが、第二次草案では、その良さがかなり消されてしまい、私共としては大変残念に思っていました。
 そういう思いもあり、このたび、不肖私が座長として数十名の国会議員と今年の春先から精力的に議論して取りまとめた新憲法制定促進委員会準備会の新憲法の大綱では、まず、基本原則をきちっと立てていこうと考えました。
 中身の詳細については、五月三日に発表しました大綱全文を読んでいただきたいですが、一部特徴的な部分を紹介しますと、まず前文では、長い歴史の中で独自の文化を形成してきたわが国の生い立ちと国家の目標という視点を提示しました。
 天皇条項は、国民統合の象徴にふさわしい地位、権能を憲法上はっきりさせることに力点をおきました。天皇は国家元首であると明記し、元首にふさわしい国事行為を具体的に規定していくべきであり、その中には祭祀も当然、明記されるべきこと。また、天皇は男系の男子で継承されるべきこと、つまり皇室典範のこの重要な部分については憲法にも明記すべきことを提言しています。
 安全保障の条項では、現行憲法九条の第二項を全面的に書き換え、防衛軍を認めるとしました。また、集団的個別的にかかわらず自衛のための権利は行使することができることも憲法上明らかにするとしました。また非常事態条項も設けました。
 基本的人権の条項では、権利には義務が伴う、自由には責任が伴うということをはっきりさせ、我が国の歴史伝統文化に基づく固有の権利、義務概念を踏まえた人権条項を再構築するとしました。政教分離の原則はありますが、宗教的伝統に深く根ざした行事には国や地方公共団体は参加できるとしました。これによって、神事になると行政担当者が席を立って、それが終わるとまた戻ってくるというような奇妙なことをする必要がなくなります。また、家族の保護規定を新設しました。それから、国民には皆で支えあう、社会的費用を負担する責務がある旨を明記します。
 また、新たに「国益条項」を設けました。国家の主権、独立、名誉を護持して国民の生命、自由、財産を保全することが国の最重要の役割でありますが、必ずしもそれが十分に尊重されてきたとはいえません。そこで国益条項を明記し内政干渉を排除してこれを守り抜く意志を内外に表明します。たとえば国家領域(領土、領海、領空)の画定。排他的経済水域および大陸棚の保全、国家領域内における資源、環境の保護を明記します。
― その条項によって、中国によるガス田開発や潜水艦侵犯問題などに対して、より明確に対処できるようになるわけですね。これからの進め方は?
古屋◆今後はこの大綱をベースに、条文を作っていきたいと思っています。この議連だけでなく、いろんな党や団体から案が出てくると思いますし、そのこと自体は歓迎すべきことです。そして議論が進んでいって、良い方向に収斂されていくことを期待しています。
― 読者にメッセージを。
古屋◆安倍総理が戦後レジームからの脱却と言われました。現行憲法の制定過程を見れば、主権国家、独立国家でありながら自らの手で作った憲法でないままでいるというのは正に異常です。新しい憲法を私たちの手で作っていく大切さということを多くの国民に知ってほしいと思います。

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